9.製造物責任損害賠償事件

 製造物とは、製造または加工された動産をいい、自然産品や不動産は含まれません。
 製造物責任とは、製造業者等が、その製造、加工、輸入等をした製造物であって、その引渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したとき、その製造業者等に、これによって生じた損害賠償責任を負わせる制度であります。  「欠陥」とは、通常有すべき安全性を欠いていることをいいますが、当該製造物の特性、通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引渡した時期その他の事情を考慮して欠陥の有無が判断されます。  具体的には、個別に判断されますが、使用形態については、消費者が常に製造者の予定した理想的な使用方法を取るとは限りませんので、合理的に予見できる誤使用については、予め製品設計段階で注意を払うほか、商品の取扱説明書をもって必要な指示、警告を行って、安全性を確保すべきであり、これを怠った場合には、欠陥が認定されることになります。  この製造業者等には、当該製造物を業として製造、加工、又は輸入した者以外にも、製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者、製造業者と誤認させるような氏名等を表示した者などが含まれます。  従来、商品に瑕疵がある場合には、直接の当事者である売主に対する契約上の債務不履行責任や瑕疵担保責任を問いうるとしても、メーカーに対する損害賠償請求をするためには、民法709条や715条の不法行為を根拠とするため、メーカーの「過失」を被害者が立証しなければならず、その立証には困難が伴うと言われていいました。但し、従前の判例でも、合成化学物質の内在的危険性から製造業者の高度の安全確保義務を認めたり、食品や医薬品の欠陥から企業の過失を推定したりする判例などが存在していました(福岡高判昭和61.5.15、判時899―48、福岡地判昭和53.11.14、判時910―33)。  そして、平成7年7月1日に、「製造物責任法」が施行され、製造物責任制度が採用され、被害者が製造業者等の過失を立証する必要がなくなりました。これに対し、製造業者等が免責されるためには、当該製造業者等において、当該製造物をその製造業者等が引渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったことを証明するか、当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥がもっぱら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないことを証明する必要があります。  製造物の欠陥による被害者は、当該製造物を保管し、被害の状況を証拠として保全しておく必要があります。  また、被害者もメーカーもともに、当該製造物の欠陥について、専門家に意見を聞く必要があるほか、場合によっては、鑑定を受ける必要もあります。  被害者の使用方法に問題があって損害が発生した場合には、そもそもその使用方法が合理的に予見できないケースや、合理的に予見できるケースでも設計・製造上の安全確保や指示・警告を明確かつ適切に行っているような場合には、「欠陥」がないと判断されることになります。そのような措置を取らなかった場合には、「欠陥」ありと判断されますが、損害賠償については、被害者の落ち度を考慮して、過失相殺の適用により、賠償額を減額の対象となります(製造物責任法6条、民法722条)。  

次に、製造物の欠陥による損害賠償請求を行ううえで、損害ならびに損害が商品の欠陥を原因として生じたこと(因果関係)の立証責任については、依然として被害者の側に立証責任があります。  判例は、「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要としかつそれで足りる」と判示しております(最判昭和50.10.24、民集29―9―1417)。例としては、食肉用豚の飼育業者が購入した飼料にトキソプラズマ原虫が混入していたために、多数の豚が死亡、流産して損害を被ったという事案で、被告が野外感染による事故であるとして、損害賠償請求に対し、因果関係を争っていたケースで、証拠として提出された再現試験結果について、汚染された飼料を検体として再現試験が行われた可能性を完全に否定することはできないので自然科学的意味で厳密さが欠けることは否めないとしつつも、経験則に照らした高度の蓋然性の見地から、飼料にトキソプラズマが混入していたために当該事故が発生したこと(因果関係)を認めた判例があります(岐阜地高山支判平成4.3.17、判時1448―155)。